過去をなくした嫌煙家 『鍵泥棒のメソッド』(2012)
|銭湯の鍵を盗んだら人生変わった!
銭湯のロッカーキーをすり替え、香川照之の荷物を、堺雅人演じる売れない役者が奪い去る。
演者が車の解錠スイッチを押すと、側にあった高級車から音がした。
主人公は、盗んだ荷物の持ち主が金持ちだと気づく。
豪華な車、豪華な部屋、使い切れないほどの大金を手に入れた。
優雅な生活を満喫していたあるとき、とある人物を殺害するように指示する電話が。
香川照之は、殺し屋だったのだ。
一方、記憶を失った香川照之は、自分を売れない役者だと思い込み、演技の勉強に励む。
本来の性格が出たのか、見聞きした物事をやたらメモる。
やがて、彼の演技は上達し、スタッフの信頼を勝ち得ていく。
|喫煙は極刑
・本作のポイント:極端なキャラ設定
大金を手に入れ、堺雅人氏が最初に行った行動が、友人の借金の返済。
なのに、態度がえらいふてぶてしい。まるで成功者気取りだ。
香川氏に対して謝罪文をしたためている。が、周囲には吸い殻と空のビール缶。
しみったれているが、一連の行動で、彼がどういう人物なのかが分かりやすい。
しかし、彼に財産を奪われた香川氏が、殺し屋だった記憶を取り戻してしまった。
(冒頭での殺害シーンを覚えておいて、このシーンを見るといい)
ここで、自らのアジトへ帰宅し、堺雅人と対面するのだが、そこで一言がこれだ。
「お前……この部屋でタバコ吸ったな!」
いやいやいや!
他のことでキレろや!
「金に手を出したな」とか、「人の家に上がり込んで好き勝手しやがって」とか、そういうのなら分かる。
だが、まず喫煙かい、と。
どんだけ嫌煙家やねんと。
確かに、記憶喪失時期に、主人公が吸ったタバコでむせてたけど。
職業上、喫煙臭が付着するのはヤバイんだろう。
彼はストイックな殺し屋だから。
|創作ポイント:シナリオのキレの良さ
上記の発言がスイッチとなり、一気に物語は上質なコントと化していく。
この切り替えが実にうまい!
香川照之の本性、それによる機転によって大ピンチを切り抜ける手腕。
血まみれの冒頭シーンから始まるから、古典ミステリ的な雰囲気を題して置いて、実は……。
邦画で、ここまで切れのいい作品って珍しい。
第86回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画脚本賞
芸術選奨文部科学大臣賞
第36回日本アカデミー賞・最優秀脚本賞を受賞
事件自体は小ぶりなのだが、この小気味よさが素晴らしい。
多くの賞を取ったのうなずける。
|まとめ
小ぶりな物語も、工夫次第で愛される傑作へ。
●余談
ちなみに、コナンコラボ版は見てません。
コナン君が記憶喪失になるそうやけど。
コナン君もタバコ嫌いそうやね。