絶・対・に・創作の役に立たない映画評のブログ

創作に役立つ、オススメの映画を紹介

クレイマー、クレイマー(1979) 演技は生えるモノ  

 

f:id:pixymoterempt:20191104164020p:plain

 

離婚調停


 ヴィヴァルディの「マンドリン協奏曲 ハ長調」に乗って、対照的な夫婦が描かれる。

  テッド・クレイマー(ダスティン・ホフマン)は、大事な商談を成立させ、人生最良の日を迎えようとしていた。
 同じ頃、妻ジョアンナ・クレイマー(メリル・ストリープ)は荷物をまとめ、人生最悪の選択をしようとしていた。

 自身を見失ったジョアンナは、息子ビリーから離れ、夫とも別れた。

 テッドはビリーとの慣れない父親生活で、仕事も手に着かない。

 ビリーも懐こうとせず、しきりに「ママに会いたい」とわめき、反抗ばかりする。

 それでも徐々に、テッドはビリーの信頼を勝ち取っていく。

 しかし、運命は二人の仲を引き裂こうとする。

 息子を捨てたジョアンナが、親権を主張してきたのである。

 こうして、「Kramer vs. Kramer」という、原題通りの対決が始まった。
 

ポイント:フレンチトースト

 脚本家の故ブレイク・スナイダーは、著作「10のストーリータイプから学ぶ」で本作を紹介し、
「あのフレンチトーストのシーンがええんや!」
 と、半ば興奮気味に記している。

 冒頭、ジョアンナが去った翌日から、テッドはビリーの朝食を作ってやらなければならなくなった。
 しかし、不注意で焦がしてしまう。
「食パン! 牛乳! そして玉子の殻!」と、これまたスナイダー氏もハッスル気味に。

 中盤、信頼関係が消失した二人の朝食シーンは印象的だ。
 テッドは新聞を、ビリーはマンガ雑誌を広げ、ドーナツを頬張りつつ互いを見ようとしない。

 
 紆余曲折を経て、父と息子は協力しつつ、プロ顔負けのフレンチトーストを完成させる。

 このように、小道具やシーン一つとっても、親子の関係を台詞なしで物語ることができるのだ。

まとめ


  
小道具を用いて、キャラの相関関係を物語る。

余談:ところどころのアドリブ

 かつてダスティン・ホフマンは、『真夜中のカーボーイ』にて演技中、本物のタクシーにひかれかけた。
 運転手に向かって「オレは歩いてるんだ!」と怒鳴り散らすという映画史に残るシーンは、なんとアドリブなのである。

 
 本作においても多数のアドリブをかましている。
 
・ビリーが食事を嫌がりアイスを食ってテッドに怒られるシーン

 このシーンは息子役の役者に、
「親に怒られるときは、どんな時だったか」
 を聞いてから撮影に挑んだそう。

・親権争いの直前、レストランでテッドがワインを壁に叩き付けるシーン

 テッドがビリーを巡って、ジョアンナとの対決を余儀なくされたシーン。
 ホフマンは去り際、飲んでいたワインのグラスを盛大に壁へと叩き付ける。
 この場面はガチのアドリブだったらしい。メリル・ストリープも演技を忘れ、唖然とした表情になっている。

・法廷で泣き出すジョアンナに、テッドが小声で声をかけるシーン
 終盤のシーンにて、そっと行われる会話シーンもホフマンのアドリブによるモノだとか。
 監督すら、何をしているのか把握できなかったらしい。 

 このように本作は「演技は生えてくるモノである」とでも言いたげに、ホフマンのアドリブが光る。