「ええじゃないか」とは「わーい、たのしー!」である。 『ジャズ大名』(1986)
|貧乏藩の笛吹き大名
大政奉還が迫る幕末の日本に、三人の黒人奴隷が流れ着く。
一方、とある貧乏藩を任されている大名は、城の構造に悩まされていた。
官軍と幕府軍の通り道となっている。
どちらも、「進軍の際には道を空けるように」と言ってきた。
完全に舐められている。
しかし、当の大名は笛にしか興味なし。
諦観か、いや、元々政治に関心がないのだろう。
黒人奴隷は、死体を運ぶ用の桶に入れられて、大名の手によって保護される。
貧乏大名は三人からクラリネットを受け取った。
吹き方を教わって、大名はコツを掴む。
その後、彼は浮き世を忘れて、ひたすら演奏に明け暮れるように。
|終盤は、ひたすら演奏シーン
筒井康隆の短編が原作。
アマゾンプライムビデオで視聴。ていうか、よく見つけたよ、これ。
プラビデオじゃないと、ちょっと手に取ってみようと思わない、風変わりな作品。
前半一時間はずっと時代劇。
残りの三〇分は、ただひたすら「演奏シーン」を流すという、とんでもない構成。
気の利いた知恵を働かせて、戦況を打破する話でもない。
終盤の解決策も投げやりだ。「通りたい奴らは全部通せ」。
真面目な奴は一人もいない。
そこにあるのは、ひたすらの快楽だ。
政治的理念も存在しない。
ミッキーカーチスがギターをかき鳴らし、タモリがチャルメラを吹く。
そんな、カオスな映画だ。
だが、それがいい。とても清々しく、美しく映る。
|わーい、たーのしー
●創作のポイント
この作品の真価は、後半の部分にこそある。
役者たちは髪の毛を振り乱し、カツラまで取れそうな勢いだ。
半裸の財津一郎が、太鼓を叩き狂う。
全員の合い言葉は「いえーい!」
一見ふざけているようにしか見えない場面だ。
世間の顔色をうかがって意見を変えることもせず、誰にも付かず、ただ状況を笑い飛ばす。
当時の言葉を借りれば「ええじゃないか」、
現代の言葉を借りれば「わーい。たーのしー」という作風と言えばいいか。
それは逃避でもなんでもない。もっと別の思想だ。
城の地下に作られた楽園は、国も肌の色も関係ない。
音楽性すら問わず、全てが一緒くたになっている。
世界平和の輪が、できあがっているのだ。
まさしく、ここにこそ「ええじゃないか」精神が、見事に表現されている。
|結論
筒井康隆の魅力は、尖った思考力そのものより、それの表現方法かと。
●余談
この映画を紹介しようと思ったきっかけは、作家・馬場卓也先生のツイート。
学校で『リズと青い鳥』が評判良かったから、共通点の多い『ジャズ大名』見せたら生徒に引かれたらしい。