バカにされてもやれ! 『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)
◇バカにされてでもやれ!
好きな女の子の気を引くために、音楽活動を始めた主人公。
そこで、ジャック・レイナー演じる兄に相談する。
大学をドロップアウトし、引きこもり状態。
だが、音楽に関しては膨大な知識を有している。
うだつの上がらない生活をしつつ、弟である主人公に対し、
「セックスしたいなら、うまくなる練習なんてするな! ピストルズが上手だったか?」
「他人の曲で女の子を口説くな! コピーバンドは自分の曲を作る度胸もねえ!」
と、コピーで済ませようとした主人公を叱責。
「曲なんて書けないよ」
と言われたら、
「自分の曲で勝負しろ! バカにされてでもやれ! 嘲笑を受けるリスクを背負うんだ!」
と鼓舞する。
彼はどんなときにでも、主人公の味方をする。
◇クソな人生を、アートにしていく
●本作のポイント
ブレッブレな主人公。だからこそいい。
主人公は、音楽の興味が変わる度に、バンドメンバーの服装がコロコロと変わる。
どのバンドに影響を受けたかが、瞬時に分かる。
髪を染めてきたかと思えば、別の日は、カラフルなスーツを来て登校。
その一貫性のなさが、主人公たちの心情を表していて、非情に分かりやすい。
思春期特有の代わり映えの早さというか。
こういう主人公の不完全さこそ、本作のテーマである。
主人公の信念は、ただひとつ。
「この世界は、バカやいじめっ子に蹂躙される掃きだめだ」
「その中で、上手くやっていく必要がある。それが人生ってもんだ」
「ボクはそれを受け入れ、アートにする」
◇オッサン救済映画の側面
●創作の役に立つ点
本作最大の魅力は、
・主人公が好きな相手と結ばれるかどうかという側面
・兄と弟、二人の男性の人生
という二重のストーリーがあることだ。
思春期映画としても、中年期の悲哀を描いた映画としても最高である。
どんなときでも、主人公の味方だった兄
ところが、終盤で彼は主人公に対する本音を吐露する。
「お前が歩んできた道はオレが開いた。お前が生まれるまで、人生の主役はオレだった!」
と。
当の本人は「ハッパを吸ってない禁断層状だ」というが、長年ため込んでいたフラストレーションだった。
たとえ傷ついても、未来に生きている権利を得た主人公。
自力で未来を切り開き、半ばで力尽きた兄。
そんな二人が織りなすドラマなのだ。
その後の、兄との何気ない会話。
色々と吐き出した後には、いつもの兄の雰囲気があって。
最終的に、主人公は自分の本心を取り戻し、自分だけの歌を演奏する流れが最高に素晴らしい。
主人公の兄のダメっぷりは、正直、他人とは思えない。
それだけに、
「バカにされてでもやれ!」
という言葉に、オレはどれだけ勇気づけられたか。
思春期映画としても、中年期の悲哀を描いた映画としても最高である。
◇結論
ブレた主人公は、強い葛藤の度に光る。
●余談
ラストで、
「本校は厳格なカトリックだったが、今はゆるくなりましたよー」
とメッセージが流れる。