キャラ同士の距離感が涙を誘う名作 『ダラス・バイヤーズ・クラブ』(2013)
エイズを殺す薬で、人が死ぬ
エイズで余命宣告を受けたカウボーイが、未承認薬を求めてメキシコへ飛ぶ。
実在した人物、ロン・ウッドルーフを描いた実話。
1980年代、エイズは「同性愛者がかかる病気」として、偏見に満ちていた。医者ですらそう思っていたのだ。
自分はゲイではないと主張するが、友人たちは主人公の元から去ってしまう。
バーで座ろうとしたとき、友人の一人がさりげなくスッと椅子を引く。
この距離感が、なんとも言い難い。
さらに、当時使われていた最新の治療薬「AZT」が、実は危険な薬物であると知る。
新薬を求め、メキシコへ
メキシコに安全な薬品があると分かった主人公は、未承認エイズ特効薬「ペプチドT」を手にして、販売することを考えつく。
国境を超える際に、彼は「神父」に化けた。
90日分以上の未承認薬物を持ち込んだことで、捜査官から怪しまれると、
「自分は末期ガンだ。大量に薬を飲まなければ死ぬ。これは自分にとって適量なのだ」
と嘘でだまし、検問を抜ける。
アメリカでドサ回りをして、ロンは未承認薬物を売り始める。
そこに、病院で別れたレイヨンが。
未承認薬物でエイズが和らいだ彼は、ロンに取引を持ちかける。
未承認薬は売ると違法だ。なので、
「会費だけもらって、薬品の代金はタダ」
という寸法を用いる。法律の穴を突いた作戦だった。
創作ポイント:キャラ同士の絶妙な距離感
レイヨンはAZTの被験者として、ロンと同じ病院に入院している。
ロンはレイヨンに足のつりを直してもらうのだが、「オレはホモじゃねえ」と、過剰な接触を許さない。
だが、共にクラブを運営していくうちに、二人の距離は縮まっていく。
ロンはスーパーで、旧友に会う。レイヨンと握手しようとしない友人を羽交い締めにして、無理矢理握手をさせる。
少しずつだが、互いに信頼関係が生まれていた。
しかし、レイヨンはドラッグをやめようとしない。
身体に悪影響を及ぼす行為はやめろ、と注意をする。
こういった距離感の見せ方が、この映画はつくづくうまい。
精神的に不安定なゲイという、難しい役をこなす。
レトの演技は、ユーモアさの中に憂いが覗く。
彼の存在は、重く堅苦しいテーマなはずの本作に、彩りを添えてくれている。
まとめ
物語によって人が動くのではなく、人が物語を作る。
余談
相棒のニューハーフ・レイヨンを演じるのは、ジャレッド・レト。
つい最近では『スーサイド・スクワッド』でジョーカーを演じた役者だ。
彼はこの映画で多くの映画賞を獲得した。
だが肝心の『スーサイド・スクワッド』は振るわなかった。
それが、残念でならない。
個人的にはあのジョーカー好きなんだが。
CVテラ子安だし。