安倍官邸 VS. NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由/相澤 冬樹 感想 ドキュメンタリーをミステリの観点から読み解く!
わけあって、本書を手に取る機会があった。
「背任問題に焦点を当てたかったのに、籠池夫妻の特異性やらに注目されすぎる上に、論点のすり替えが行われ、はがゆい思いをした」
という点をメインに執筆なされている。
「NHKによる記事改ざん」から始まる冒頭は、実に構造が分かりやすい。
だが、このブログでは「政治的オピニオン・主張」やらは特に議題に挙げない。
少なくとも本書は、「アベが悪い」などといった短絡的な発言はないとだけは断言できる。
そこまで。それ以上は本書を読んでご確認願いたい。
オレが本書を紹介したいと思ったのは、
「この本が実にミステリ小説的であり、創作のためになる」
からである。
|創作ポイント:人間性・人物像を重視した点
本書の特徴的な部分は、 「登場人物の人間くささ」である。
森友問題に関わった人々がどのようなバックストーリーを背負って戦っていたか、にスポットが当てられてる。
おかげで、TVでは語られない籠池夫妻の人物が浮かび上がってくる。
「あくまでも『安倍首相バンザイ』と園児たちに言わせていたのは悪いよね、ということであって、彼らの教育理念は特に間違ってはいないけど?」
と、本書は語る。
人物描写は籠池夫妻だけではなく、取材する記者、弁護団、検察にまで及ぶ。
筆者からしてロック好き、酒好き。「大阪の谷町でしこたま飲んだ!」という話で記事
の雰囲気を緩める。
筆者が取材しようとした相手の中に、堅物がいた。
どう頑張っても取材させてもらえない。
筆者は取材対象の実家が喫茶店であると知る。「そこでコーヒーを飲みに行きましたよー」と相手に伝えた。すると、彼は態度が変わったという。取材には結局失敗したが。
弁護団のボスは猫好き。こっちの弁護士はサイコパスを担当して、ご苦労なされただろうなど、事件のあらましより関係者の背景に重きが置かれている章がある。後半の章はそんな内容ばかりだ。
オススメは検察側の女性と対決した話である。
「記者の感想には応じない!」と、頑なな態度を崩さなかった。
頼れる後輩ですら手を焼き、応援を求めてきた相手である。
だが、彼女が「夫とラブラブ」という話を聞く。
神戸で弁護士を勤める夫と離れたくなくて、自分の勤務先が京都なのに神戸から片道二時間かけて通っていたらしい。
人間くさい相手には、ケンカを売るのが一番と、記者は相手を挑発。見事、彼女の主張を獲得した。
筆者は若手時代、「聞きたいことをダイレクトに聞くな」と先輩記者から教わった。
「教えてもらうんじゃなくて、聞き出せ」と。
「相手は何を聞きに来たか分かっている。だが言えない立場だ。相手が聞きたい話題を振って関係を構築せよ。そうすると記者が本当に聞きたいことを話してくれる」
のだとか。
関係性の構築しているからこそ、生きた取材ができるのだ。
●まとめ
「具体的な事実のみが知りたいんだ!」
という方だと、この章は読みづらいかも知れない。
だが、この部分こそ、ミステリアスで読み応えがあるのだと、作家志望者はこの部分こそ見習うべきだ、とオレは主張したい。
ミステリだって、人間を書くものだ。
「こんなヤツだから、こういった犯罪を犯した」
という軸があって、ようやくミステリは成り立つ。
ミステリはトリックやロジックではなく、人間が主役だと言える。
本書は、そういった視点を、ドキュメンタリの観点で教えてくれる。