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3000文字10歳の頃 その2  オレの人生を狂わせた作家、ハービー・ブレナン!

●オレは三冊の本に人生を狂わされている。

 二〇代の頃、神坂一先生の『スレイヤーズ』にアニメからラノベに入る。これ以降、オタ趣味を隠さない性格に。
 
 二冊目は、逢空万太先生原作ラノベ「這い寄れ! ニャル子さん」。こちらもアニメ化されている。
 特撮パロディ満載で、この本から本格的にラノベを勉強し、投稿を始める。


 だが、オレにとって、挿絵のある小説の歴史は、もっと古かった。

 実は、10歳の時に出会った、ブレナンのゲームブックからだった。


●ゲームブックってなに?

 そもそも、皆さんはゲームブックという本の存在をご存じだろうか?

 文章が短く区切られており、文頭にパラグラフが書かれている。
 人称はすべて二人称。
 
「あなたは分かれ道にでくわした。右に行くなら23へ。左なら45だ」
 みたいな感じ。
 
 選択した数字によって、展開や運命が変わるのだ。

 いわば、80年代にあった「アドベンチャーゲーム」や、90年代以降に流行った「ギャルゲー」、「恋愛シミュレーション」の走りみたいなゲームである。
 
 
 元々姉が買っていて、オレがつまみ食い程度に読む感じ。
 挿絵は気持ち悪かったが、それがまたクセになる。

 ゴブリン、ホブゴブリンなどの言葉も、こういうゲームで覚えた気がする。
 RPGという概念が日本に来て、まだ日が浅い時期。
 ゴブリン一匹でも脅威で、油断すると負けてしまう。特に冒頭なら、武装も貧弱だ。
  

 オレの小説デビューは、「ドラゴンクエスト」だったと思う。
 ドラクエは興味があって、ゲームブックの値段も確か安かった。
 ローラ姫を救うまでの冒険を描く「上巻 甦るロト英雄伝説」、竜王を倒しに行く「下巻 死闘! 竜王の島」の二巻組み。

 主人公はドラクエ1の勇者となって
 プレイ中に死にはする。だが、グロい表現などが抑えられていて、小学生にも読みやすかった。
 ただ、精神的にくるシーンが多く、子どもながらにビクビクしながら読んでいた。

 ドラクエシリーズのゲームブックは楽しくて、続けてドラクエⅡのブックまで手に入れた。
 ロクにゲームを買ってもらえなかったので、ゲームブックはありがたい存在だったのを覚えている。
 
 
 ゲームブックが面白いと感じ始めたあるとき、姉が珍妙なゲームブックを手にしていた。

 
 二見書房『ドラゴン・ファンタジー』シリーズの、『七つの奇怪群島』である。
 

●ハービー・ブレナンとは?

「ドラゴン・ファンタジー」シリーズとは、ハービー・ブレナンが開発したゲームブック、「グレイルクエスト」の日本語版である。

 アーサー王の使いである魔術師マーリンの手により、プレイヤーは「ピップ」という若い農民の体内に意識が閉じ込められるという設定。ちなみに、男女を区別する記述はないので、女性でも楽しめるそうな。

 アーサー王の指示で、ピップは無理難題を押しつけられる。
 相棒の話す剣「EJ(エクスカリバー・ジュニア)」とのやりとりが実にユーモラスな作品だ。

 終始皮肉に満ちた、独特の語り口。
 油断ならぬ敵や罠。
 歌を聴いてあげないと、またそれを絶賛してあげないと、問答無用で殺しに来る悪魔。

 本書はそういった魅力が満載だ。

「暗黒城の魔術師」というのが一作目のタイトルなのだが、姉が持っていた「七つの奇怪群島」は、4作目である。

 

 オレが最も影響を受けた作家は、ブレナンである。

●14へ行け

 本シリーズで最も有名なワードは、パラグラフ14である。
 14という数字は本作において「ゲームオーバー」を表す。
 14番を踏んで、主人公ピップはまた復活し、冒険に出るのだ。

 この作品は、14への導き方が実に面白い

 イメージとして、
・キミは一つ目のイノシシと戦闘に。勝てば70へ。負けたら14行きだ。
・右か左か、行き先は二つ。道を間違えたら14行きだ。
・宝箱を開けてしまったのかい? それが14への特急券だと知らずに。はい毒ガス。
・グシャ。これはキミの脳天が割られた音だ。14へ。

 と、死に方の描写もユーモラスでブラックさに富んでいる。
 
・キミは崖に落ちそうだ。もし岩を掴むことができたら169へ。できなかったら言わなくても分かるよな?
 
 といった変わり種の導き方もある。
 
 
●挿絵はフーゴ・ハル氏

 グレイルクエスト最大の魅力は、なんといってもイラストレーターの「フーゴ・ハル」氏の挿絵である。

 クトゥルフ神話系の小説といえば、フーゴ・ハル氏が表紙! という感想も出てくるかと思う。
 現在でも精力的にご活躍中で、HPなども拝見させてもらっている。
 
 
 独特のタッチで描かれており、不気味さの中に愛嬌がある。ニヤリと笑う一つ目のイノシシなど、キモカワイやっぱキモイ無理、という感想が飛び出すほどだ。
 
 ブッチャー(精肉屋)一匹を描写するにおいても、一切の手を抜かない。「無理! 勝てない!」と思わせるに十分な迫力を放つ。

 
 筋肉の影など、「およそ子ども向けではない見た目」のクリーチャーがわんさかと出てくる。

 復刻版のグレイルクエストを読んでみたのだが、ちっともマイルドになっていない。
 兵隊の腕の関節など、ジョジョ立ちすら凌駕している。「どうやってこんなポーズになるねん!」という感想が出てきてしまう。

 HJ文庫の新人賞投稿では、投稿フォーム内に
「好きなイラストレーターを三人上げてくれ」
 という項目がある。

 オレはフーゴ・ハル氏のタッチが好きすぎて、その項目の最後に必ず
「フーゴ・ハル」
 先生の名前を入れるようになってしまった。

 オレにとって、好きな挿絵氏のトップはいくつになってもフーゴ・ハル先生である。


●ブレナンと出会った弊害

 ただ、本書を読んですこし困ったことが起きてしまった。
 小説の理想図が高くなりすぎたのだ。

 あまりにも面白すぎたためである。
 カニやいくらも、あまりに美味しすぎるものを食べてしまうと、他のカニなどが食えなくなるときがある。
 まったく同じことが、小説で起きてしまったのだ。
 おかげで、スレイヤーズなどのギャグファンタジーを受け入れるようになるまで、一〇年近くを要してしまう。

 他にももっと面白い小説は山ほどあったはずなのだ。
 ホームズシリーズやポワロシリーズなどは、大人になってから読んだ。
 それが、「児童書コーナーにちゃんと置いてある」ことを、子どもながらに知らなかったのである。
 それくらい、オレは本を読まないガキと化していた。
 姉貴が持ってる赤川次郎とか、漢字と格闘しながら読んでたのに。
 
 馬鹿にせず色々と読んでおけばー。

 大人になって分かったのだが、オレは自分で思っている以上に本好きだった。
 
 あのときもっと小説を読んでいたら、オレの作家デビューはもうちょっと早かったかもなーと、今でも後悔している。

 まあ、勉強したかどうかは別として。
 
 
●そして現在
 
 2004年からは、創土社より復刊が始まっている。
 オレも現在一冊目をようやく手に入れ、ちょっとずつ買い足していこうかと考えている。
 
 ネットが普及し、調べてみると、本作は
「出来や評判ともに、最も評価の低い作品」
 とファンの間で言われていると知り、ショックを受ける。

 それでも、当時のオレは楽しんで読んでいた。
 一番面白くないとファンから罵られた作品ですら、オレはあそこまで楽しめた。
 だから、いかにグレイルクエストが素晴らしい作品か、分かっていただけると思う。
 

 また、ゲームブックはやはり挿絵が面白い。
 現代のような萌え絵とかではないが、海外製のヤバめなクリーチャーの絵は、見ていて一気に異界へ飛び込んでいける。

 今でもちょこちょこ、古本屋や中古ゲーム屋などで、年代物のゲームブックを見かける。

 ぜひ、手に取ってみては?