エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの- 感想 ゲームは社会の役に立つのか、を問いかける
|ゲームは役に立つのか?
「ゲームばかりしていては、ロクな社会人になれない」
「遊んでないで勉強しろ」
現代社会において、ゲームはなにかとやり玉に挙げられがちだ。
だが、本書は「人生に潤いを与えたゲーム」の物語である。
|盲目の少年の願い「ゲームがしたい」
『.hack』の製作会社、サイバーコネクトツーは、シリーズの最新作を作成していた。
松山洋代表は、こんな電話依頼を受けた。
相手は、『がんの子どもを守る会』という団体のソーシャルワーカーだった。
彼女によると、「目に病気を抱えた少年が、ある願いを求めている」という。
「ゲームの最新作を遊びたい」
なんでも、その少年は近々、目の手術を受けて、完全な盲目になってしまう。
それまでに、大好きな『.hack』のシリーズを遊ばせてくれないか、というのだ。
たしかに、ゲームは完成している。
だが発売日は、手術の九日後である。
絶対に間に合わない。
マスターディスクを渡せば、彼に遊んでもらえる。
目が見えなくなる直前とはいえ、特別扱いしていいのだろうか。
開発者は悩んだ末、ゲームを少年の元へ届ける決意をした。
会社側のOKをもらい、病院へ。
松山さんは、CDだけでは味気ないだろうと、ちゃんと販売用のパッケージでラッピングするというおまけまでつけた。
少年は無事にエンディングを迎えることができたという。
だが、それは様々な人達の協力があってのことだった。
なぜ、大企業が重い腰を上げたのか。
あれから一〇年が経ったとき、代表はあの日に起きた事実を知らされることとなる。
|TVで再現ドラマも
この出来事は、TV番組『奇跡体験!アンビリバボー』で、
「ゲームと少年巡る特別な3日間 人生変える奇跡の出会い」
という題名で放送された。
なので、知っている方も多いと思う。
オレは放送前に本を買っていたので、内容は全部分かっていた。
しかし、やはり感動した。
物書きという仕事をやりたいと思っている身として、
「エンタメの存在意義」を、毎日考えているからだ。
|エンターテインメントは、社会の役に立つ
本書が伝えたいのは、「エンタメは確実に、社会の役に立つのだ」ということである。
この出来事の後、代表は社内ミーティングで、こう語る。
「ゲームは社会の役に立たないと言われている。しかし、自分たちは一人の少年を救ったんだ。彼は喜んでくれた。ゲームは人の心を救うんだ。それを忘れないで欲しい」
泣きながら、代表は語ったという。
ゲームなどのサブカルチャーは、何かと世間で悪者にされる。
だが、サブカルチャーで救われた人達だっている。
ゲームという繋がりがあったから、代表は少年と出会えた。
少年はゲームを楽しんだことで、暗闇の中を生きていくと決意した。
人によっては、ゲームなんてただの暇つぶしかも知れない。
それは全てのエンタメにだって言えるだろう。
それでもいい。
手に取ってくれた人に、癒やしを与えられるなら。
エンタメノ存在意義は、「楽しんでもらえること」だ。
イメージした世界を楽しむことで、現実でも一歩前に進めるなら、それは成功なのではないだろうか。
●余談
松山さんは、ご自身のnoteにて、アンビリバボー側とのやりとりを書いていらっしゃる。
面白いので、そちらも是非。