紙の月(2014) 新しいタイプのファムファタール
角田光代原作
宮沢りえ演じる主人公は、冷え切った家庭に不満を覚えていた。
社員になった記念として、主人公はペアルックの時計を買う。
しかし、夫は喜ばない。「これくらい気軽なヤツが欲しかった」と小バカにしてくる。
出張の帰りに、高い時計を買ってくる始末。
銀行員として働き始めた後、顧客の孫である少年「光太(池松壮亮)」と不貞を働く。
年下の男性に貢ぐため、とうとう主人公は客の預金に手を出した。
ただ、化粧品が欲しかっただけで。
恵子(大島優子)のキャラがあおってくる。
「私は会社ではブランド品を身につけない。銀行員だから持ち物をチェックされる」
ロレックスの時計を見せるが、
「所帯持ちからもらった」
と平然という。
「色々ガマンしているなんて、バカみたい」
これによって、主人公の金銭感覚を狂わせていく。
追い打ちをかけるように、夫の上海転勤が決まった。
これにより、光太と会う機会が増えてしまう。
ポイント:男のためではないのに落ちていく女
この映画の特徴は、光太は決して詐欺師ではない点だ。
宮沢りえを利用して金をふんだくろうとか、やたら高額なものを要求したり等はしていない。
単なる苦学生で、大学に入る資金が欲しいだけ。また、会社で働くため、Macが欲しい程度と、要求はささやかなものだ。
主人公に金品を要求するシーンは、一切ない。
口では「金がない」と言う。
だからといって、主人公にせがんだりはしない。自分で何とかしようとする。
なのに、主人公が勝手に首を突っ込み、光太に「与える」のだ。
これは、作者の狙いだという。
男に貢ぐダメ女といった報道に、違和感を覚えて、作者は原作小説を執筆したという。
だが、味を占めた主人公は、彼を手放したくない一心で、大量の横領を行う。
男に捨てられたくない。その一心で、ダンナが出張中の間、おうちでせっせと偽の調書作り。
この間違った価値観が痛々しい。
家に洗濯ばさみで吊された証書のコピー。
スイートルームを借りてカップ麺を啜る姿が、最も幸せそうに見える。
また、彼女に不信感を抱く小林聡美がまた不気味だ。
彼女の方が絶対正しいのに、見ている側は、宮沢りえに感情移入してしまう。
犯罪が発覚した終盤、冒頭のシーンになる。
恵まれない子どもたちに、少女時代の主人公が寄付をするシーンだ。
この中に、壮大なミスリードが含まれている。
「ああ、こいつは、最初から狂っていたのか」
と、あなたも思うに違いない。
まとめ
視点を新しくすることで、新しい話ができあがる。
余談
本作は、原田知世主演でテレビドラマ化もされている。